人気少年漫画『ジョジョの奇妙な冒険』の作者として知られる漫画家の荒木飛呂彦が、9月27日よりサンフランシスコのデ・ヤング美術館で行われる「Art of Manga」展にあわせ、同市のギャラリーでリトグラフとレンチキュラー作品を発表した。
11月14日から京都・東本願寺に巡回する。
荒木飛呂彦
1960.6.7– 出身地:宮城県
1980年、『武装ポーカー』で第20回手塚賞に準入選し、「週刊少年ジャンプ」でデビュー。
1986年から同誌で『ジョジョの奇妙な冒険』の連載をスタートする。
日本国内のシリーズ累計発行部数は1億2000万部を超える。
2025年現在、「ウルトラジャンプ」に『ザ・ジョジョランズ』を連載中。
2009年、ルーヴル美術館の企画展に参加。
『岸辺露伴 ルーヴルへ行く』(Rohan au Louvre)を発表。
2013年には、全世界のGUCCI直営店でコラボレーションワークが展開される。
2018年、国立新美術館(東京)で「荒木飛呂彦原画展 JOJO 冒険の波紋」を開催。
現役のマンガ家の個展が国立の美術館で開催されたのは、これが初めてである。
リトグラフ作品
2025年6月より、荒木飛呂彦は9点のリトグラフプリント作品を描いた。
リトグラフとは、200年以上の歴史を持つ版画技法。
日本語訳として「石版画」があてられるように、石に描画したイメージを紙にプリントする技術として創始。
高度な技術をアーティストに要求するエッチング(銅版画)と異なり、技術的にはより容易にイメージを複製できることから工業的な技術として使われ始め、19世紀以降にはエドガー・ドガ(1834–1917)らが着目。
刷師と共同で、この技法でしか作りえないユニークな版画作品を制作したことから美術作品として認められはじめるようになる。
現在の印刷が、原画を写真撮影もしくはスキャニングしたうえで印刷用の版を作成するのに対し、リトグラフでは版そのものにアーティストがイメージを描く。
現在では石ではなく金属版にイメージを描くことが多く、今回も金属版を使用しているが、版に直接作家がイメージを描くことは変わっていない。
このため、リトグラフ用の鉛筆やチョークで描かれたイメージは、直接紙に描いたかのような質感をもって紙に転写される。
荒木飛呂彦『ジョジョの奇妙な冒険』は、1986年、「週刊少年ジャンプ」で連載がスタート。
現在「ウルトラジャンプ」で、第9部となる『ザ・ジョジョランズ』が連載中だ。
第3部「スターダストクルセイダース」で発現する「幽波紋=スタンド」は、常にその持ち主に寄り添って(Stand by Me)戦う。
その姿は人間に近い姿をとることもあれば、液体、気体、機械のように様々な姿をとり得る。
今回、荒木飛呂彦が初めてリトグラフ作品を描くにあたり選んだのは、次のキャラクターとスタンドたちだ。
空条承太郎/スタープラチナ
DIO/ザ・ワールド
東方仗助/クレイジー・ダイヤモンド
ジョルノ・ジョバァーナ/ゴールド・エクスペリエンス
空条徐倫/ストーン・フリー
ファニー・ヴァレンタイン /D4C (Dirty Deeds Done Dirt Cheap)
岸辺露伴/ヘブンズ・ドアー
広瀬康穂/ペイズリー・パーク
ドラゴナ・ジョースター/スムース・オペレイターズ
通常、マンガの本文はモノクロで描かれる。
その絵は、製版の過程で、はっきりした黒と白の2値データ化され、活版輪転印刷でプリントされる。
すなわち、鉛筆や墨の濃淡は再現されない。
一方今回の作品ではリトグラフ用の鉛筆とチョークが用いられ、作家が描いた線がそのまま再現される。
一度描いた線は消しゴムなどを使って消せないこともあり、アーティストは緊迫感を持って手を動かすことになるが、しかし我々はそこにゆったりと伸びる描線のたくましさや、すっと伸びる線の正確さと心地よさ、ざっくり粗く描かれたシャドウのリズムなどを感じることができるのだ。
版画は、板津悟(善福寺石版画工房)が担当。
9作品、各100部が制作される。
レンチキュラー作品
レンチキュラープリントは、シート状の「レンチキュラーレンズ」を貼り、イメージをアニメーションさせたり、立体的に見せたりするプリント技法だ。
今回の作品では、イメージを立体的に見せる技法を用いている。
人間の両眼が持つ視差を利用することで立体視を実現するレンチキュラープリントは、単眼であるカメラの撮影ではその効果を再現することができない。
人がその両眼で見たときにのみ、最大の効果を持って現出する。
パララックス(視差)バリアとして知られるこの技術は、100年以上の歴史を持つ。
1915年にはアメリカで特許出願された記録があり、1940年代にはパリで3Dレンチキュラーのプリントサービスを行うスタジオが開業。
60年代にはカラーのレンチキュラープリントの大量生産が可能となり、爆発的な人気を得た。
絵葉書などお土産として作られるものが多かったところ、大画面のプリントの作成も可能になったことで、ファインアートのプリント作品にも用いられることになった歴史を持つ。
今回、第1部〜第9部の主人公の印象的なシーンが横幅約1メートルのサイズで作品化された。
第1部 ジョナサン・ジョースター
第2部 ジョセフ・ジョースター
第3部 空条承太郎/スタープラチナ
第4部 東方仗助/クレイジー・ダイヤモンド
第5部 ジョルノ・ジョバァーナ/ゴールド・エクスペリエンス
第6部 空条徐倫/ストーン・フリー&エルメェス・コステロ/キッス
第7部 ジョニィ・ジョースター/タスク ACT4
第8部 東方定助/ソフト&ウェット
第9部 ジョディオ・ジョースター/11月の雨(ノーヴェンバー・レイン)
近寄り、遠ざかり、左右に歩きながら、瞬間であるはずのシーンを、拡張された時間のなかで鑑賞。
マンガという表現形式とレンチキュラープリントの技法が結合した、新たな体験が得られるはずだ。
本展は、サンフランシスコ展示のあと、11月に京都で行われるACK 2025にあわせ、東本願寺・白書院に巡回する。
また集英社マンガアートヘリテージウェブサイトにて、順次抽選販売を開始予定だ。
Hirohiko Araki JoJo’s Bizarre Adventure
Lithograph & Lenticular Works
2025年9月27日〜10月25日(日・月曜休廊)
Minnesota Street Project
1275 Minnesota St. and 1150 25th St., San Francisco, California 94107, USA

ミネソタ・ストリート・プロジェクト
アメリカ、サンフランシスコの南。
倉庫を改装し、複数のギャラリーやスタジオ、レストランが入るスペースとしてリノベーションした。
2016年オープン。
今回展示を行うのは、中央のスペース。
*田名網敬一「TANAAMI!! AKATSUKA!!」展を同時開催。
荒木飛呂彦『ジョジョの奇妙な冒険』 リトグラフ&レンチキュラー ワークス 東本願寺・白書院(京都)
2025年11月14日(金)〜16日(日)
大人 1800円 中・高校生 1200円
*完全予約制となります。
2025年9月9日(火)13:00~販売開始予定。
こちらからチケットをご購入ください。
集英社マンガアートヘリテージ

(文:遠藤夏子)