タイミングを見失う恋は、大切なものを遠くへと連れ去って・・・/back number「冬と春」

友達以上恋人未満 タイミングを見失った恋の行方

「友達以上恋人未満」なんて言葉は一体誰が考えついたのだろう。
ベッドの中、見慣れた天井を見つめながら、まどろむ土曜日の朝。

隣で眠る隣人は友達なのか恋人なのか。今はただの友達であり、隣で眠る隣人…なのだろうか。
「好き」の二文字が、こんなにも重いなんて考えたこともなかったな。
恋人に擬態してるだけの関係なのか、言葉で確認する必要もない確かな二人なのか…
当事者だって分からないのだから、誰かに理解してもおうなんて微塵も思わない。
恋人という肩書きに憧れがあるわけじゃないし、ほかに名前があるのならそれでもいい、
呼び方なんてどうだっていいとも思う。

いつしか二人には真剣に向き合うことも、何より「好き」と言えるタイミングも
見えなくなってしまった。

「好き」という気持ちを口にして確認することもできない、どっちつかずな二人の関係は、
ふわりふわりとこうして続いている。

もしかすると「好き」と告げれば、もっと無条件に楽しくて不安なんてなくて、
もっともっと笑い合える幸せな土曜日の朝を迎えられるのかも知れない。
逆に、確かなものなんてなくてもいいと強がるこんな土曜日さえも
失ってしまうかもしれない。

そう思えば思うほど、隣でなんの悩みもなさそうに眠る
脳天気な人の無防備さにちょっぴり悔しくなる。
けれどそれを打ち消してしまうほどの愛しさが、
どこからともなく湧いてくるから始末に負えない。
悔しさと不安とせつなさと愛情がない交ぜになって、
また私を曖昧な関係にとどまらせてしまう。
無邪気さは罪だ。

彼がぎゅっと抱きしめるように包まるシワシワのリネンに目を落とすと、
「これって私たちの関係みたいだな」とふと思う。
確かに出会った頃は互いに真っさらで、シワひとつないピンと張った綺麗な布地のようだった。
それが、いつのまにかシワシワになって、もう真っ直ぐになんて戻れない。

そんな想いの一方で、「でも必要な存在だから、こうして一緒に笑い合っているんだよ。
タイミングがくれば〝好き〟なんて容易く伝えられるから大丈夫」だとか、
「きっと〝俺も同じ気持ちだよ〟と言ってくれるはずだよ」なんて
自分に都合の良い言葉たちが脳天気に頭をもたげてくる。
辛い気持ちを必死に打ち消しにかかるのは、きっと私の弱さだ。
ああ、どうしてこんなにも弱くなってしまったのだろう。
好きになったあの日から、いつも胸の中にはさまざまな感情が、
寄せては返す波のように押し寄せてくる。

太陽が眩しくなってきた頃、いい加減、どうどう巡りの出せない答えに嫌気がさした私は、
そっとベッドを抜け出しキッチンに立った。
慣れた手つきでコーヒーを入れ、いつもの香りに包まれてほっとする
日常のルーティーン。
そうして自然と手がスマホに伸びた。
触れると聴き慣れない曲が耳に、心に飛び込んできた。

 

back number /「冬と春」
移りゆく季節になぞらえた苦しくもせつない恋もよう

私を探していたのに 途中でその子を見つけたから
そんな馬鹿みたいな終わりに 涙を流す価値は無いわ

「冬と春」/back number

イントロもなく、ただただ突然、憂いのある歌声が恋の終わりを告げる
back number『冬と春』。
そのあまりにも唐突な始まりは、思いもしなかった「別れ」に戸惑う女性の心情を
無情にも描き出す。残酷すぎて、思わず胸が苦しくなる。
きっと主人公の女性は大好きな人との「別れ」よりも、「ずっと一緒にいる未来」を
思い描いていたのだろう。
それが手に取るように伝わってくる、するどすぎるイントロの表現に
思わず心奪われていく。

清水依与吏の書く詩のリアルが心をえぐり、次々に心に突き刺さる。

曖昧な関係の二人だけど、女性はずっと男性も同じ気持ちでいると信じていたのだろう。
どうしても「好き」という言葉を口にできなくて、その一歩が踏み出せず
躊躇う気持ちが二人を遠ざけてしまう。
そこには新しい風が吹き、彼を軽々と連れ去っていってしまった。

嗚呼、冬がずっと雪を降らせて 白く隠していたのは あなたとの未来だとばかり
嗚呼、春がそっと雪を溶かして 今 見せてくれたのは 知りたくなかった気持ちの名前

「冬と春」/back number

サビのフレーズの「冬」と「春」のコントラストが美しく、
だからこそせつなさが増幅される。

寒さに凍える冬には、「好きだと伝えられなかった曖昧な関係の二人」を、
温かな春には、「好きな子ができた幸せ溢れる新しい恋」を重ねて見せる。

そしてそれ以上に、私には
「冬」は、いつまでも未来を夢見たままで曖昧なまま勇気が持てなかった主人公。
「春」は、あなたをさらっていった春風のような〝彼女〟になったあの子。
のたとえのように見えてしまう。

 

似合いもしないジャケット着て
酔うと口悪いよね あいつ
「でも私 そこも好きなんです」だって
いい子なのね
でもねあのね
その程度の覚悟なら 私にだって

「冬と春」/back number

Dメロでは、彼女となった屈託の無いピュアな子の「好き」と言う言葉に、
どうして自分は素直になれなかったのかな、私のほうがずっとそばにいたのに…という
主人公の取り返しのつかない後悔と悔しさが滲む。

 

そしてこう曲は締めくくられる

一人泣いているだけの私
あなたがよかっただけの私

「冬と春」/back number

「あなたがよかっただけ」という言葉の強さ。そう言い切れる強さがあったなら、
きっとタイミングさえ間違わなければ、ふたりは、ふたりはきっと…。

そしてふたりが求める季節の行方は・・・

「おはよう」という声が割って入ってきて、私はハッと我に返った。
寝ぼけ眼の彼は、半分夢の中、
そして私は、半分「冬と春」の曲の中にいた。
いたというより、曲の中の主人公、それは紛れもない自分だった。

向き合うこと、失うことが怖くて、
タイミングを見失って、言い訳ばかりして。
もし彼の前に、いつか「春」を運ぶ女性が現れたら私は…。

「ねぇ!」。思わず飛び出したいつになく真剣な私の呼びかけに、
ソファーに腰掛けて、揺れるカーテンの隙間から覗く柔らかな光に
目を細めていた彼が振り向く。
私は彼の目を真っ直ぐに見つめた。

やっぱり、私は彼の大切な「春」になりたい。

ーこの世界のどこかで、きょうも恋する女性の姿。つまりこれはフィクションですー

 

「冬と春」を聴いたとき、「春と冬」ではなく、
「冬」を先に持ってきたタイトルでよかったなと、

そこに、なんだかほんの少しの救いをみた気がしました。
「冬」がもしも主人公を表すものだとしたなら、
彼は真っ先に彼女には選ばなかった「冬」の主人公を思ったことになります。
それは紛れもなく彼にとって、主人公と一緒にいた時間が、
大切なものだったという証になると思いました。
どんなに悲しい結論だとしても、彼に大切にされたという想いは、
恋する人たちの希望となり、
新しい光となるのではないでしょうか
(あやの)。

 

【プロフィール  back number】
2004年に清水依与吏(Vo, G)を中心に群馬県で結成。2007年に小島和也(B, Cho)と栗原寿(Dr)が加入し現在のメンバーとなる。2009年、初のミニアルバム「逃した魚」をリリースし、話題をさらう。2010年にフルアルバム「あとのまつり」を発表し、美しいメロディと切ない歌詞で多くの人の心を掴んだ。2011年4月にシングル「はなびら」でメジャーデビューを果たし、「高嶺の花子さん」「クリスマスソング」「ハッピーエンド」「HAPPY BIRTHDAY」「水平線」など数々のヒット曲を生んでいる。2024年1月17日、約4年ぶりとなる7thアルバム『ユーモア』をリリース。1月24日には配信シングル「冬と春」も。同MVは、清水依与吏原案・ディレクションで初監督も務めた。
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