眩くて鮮烈、青春の日々が浮かびあがるRYUSENKEI、そしてALFAミュージック!

RYUSENKEI クニモンド瀧口とシンガーのSincere(シンシア)

流線形を知ったのはいつだったか…ユーミンが好きなんだろうなってバンド名だかユニット名に、多分同じポップスの血が流れている人たちなんだろうなと思った。そう思ったのは僕だけではないはずで、2003年のアルバムで『CITY MUSIC』ってタイトルは象徴的だったと思う。

メンバーにピアニストの林有三がいたっていうのも驚きでありました。そして冒頭の「3号線」からしていったい今はいつの時代なんだっけ!?ってエヴァーグリーンさとともに、一つ一つの楽曲が何かのアンサーソングにも思えるような、非常に洗練されたバンドサウンドがあったのでした。なんか勝手に仲間意識を持ってしまうようなシンパシーを感じるサウンド…生意気書いてすみませんが、やりたいことをやられた!悔しい!という嫉妬心とともに、やっぱりこういう音楽が好きなんだ!って再認識させられる楽曲のオンパレード状態。

正直、『CITY MUSIC』のジャケットは地味な印象だったけれど、次の2006年のアルバム『TOKYO SNIPER』はジャケ買いするほどの名盤であります。この頃にはあちこちで聴いている人がいましたっけ。当時いつのまにかクニモンド瀧口のソロプロジェクトになっていて、クニモンド瀧口という名前も次第に一人歩きするようになりました。たしか一時期は外資系レコードショップのバイヤーも務めていらっしゃって、抜群に温故知新・音楽に詳しい存在と聞いておりました。『TOKYO SNIPER』のリードシンガーの江口ニカの歌声も素晴らしかったですね。タイトル曲ではSaigenjiとデュエットしているのも話題でありました。

2009年には比屋定篤子とのコラボレーションアルバム『ナチュラル・ウーマン』をリリース。この頃にはフィーチャリング・ボーカル体制になるんだろうなって思っていました。シンガーソングライター比屋定篤子の存在を僕はこのアルバムで知ったのと、ジャケットワークが素晴らしかったですね。個人的にはジョージー・ポージーな「まわれ まわれ」にニンマリしつつ、ドナルド・フェイゲン風アレンジな「オレンジ色も午後に」、ベースリフがファンキーな「メビウス」などが好きで、もう完全に流線形ブランドにはまってしまいました。

2020年にはNHKのドラマ『タリオ 復讐代行の2人』の音楽を手掛けるのですがいちいちかっこいい笑。こんな本来は昭和テイストのインストをよくオシャレに仕上げられるなと感心してしまいますが(ルパン三世とか土曜ワイド劇場の江戸川乱歩シリーズ、探偵物語とかいろいろ思い浮かぶのです…)、オープニングテーマが流線形/一十三十一「金曜日のヴィーナス feat. 堀込泰行」、エンディングを流線形/一十三十一「悲しいくらいダイヤモンド」とか…これも非常にポップファンの間では話題となりました。アルバム『Talio』は本来サントラであり、普通ならドラマの1シーンがジャケットになりそうなところですが、イラストを手掛けたのは永井博であります。もっともドラマの制作陣もその手の音楽が好きだから実現したのだと思うけれども…このイラストで流線形を聴いてみたいって思ったドラマ視聴者も多かったようです。

2022年にはなんと!Natsu Summerをフィーチャーした『サン・キスド・レディー』をリリース。これが言わずもがなのはまりっぷりで、僕はもう流線形のシンガーはNatsu Summerでいいじゃん!と思ったものでした。「トワイライト・シャドウ」筆頭にラヴァーズレゲエムード中心の一枚。とはいっても全編がレゲエテイストというわけではないですが。Natsu Summerのテイストはそのままにちゃんと期待を裏切らないサウンドを作り上げるクニモンド瀧口の巧みさが光っています。それにしても「低気圧ボーイ」って曲名センスは笑ってしまいます。

なお2023年の『インコンプリート』は堀込泰行をフィーチャー、先述の「3号線」などのセルフカヴァーだったり、「潮騒」は山下達郎のカヴァーか!?と思う方もいるでしょうが、一十三十一に提供した「人魚になりたい」の男性視点の歌詞ヴァージョンであります。このほかにもいろんな活動をしていたクニモンド瀧口。僕はだんだん冨田ラボみたいなスタイルになっていくのかな?と思っていたのですが、その先に待ち受けていたのが流線形改めRYUSENKEIなのであります。

このプロモーションビデオでまず注目しなければならないのが冒頭です。うおーALFAミュージックのロゴが!というわけで、流線形改めRYUSENKEIこそが、新生アルファミュージックのリリース第一弾アーティストなのであります。そもそも僕らアラフィフ世代にとってアルファミュージックとは憧れのレコードレーベルの一つでした。レーベルオーナーは作曲家、アレンジャー、プロデューサーの村井邦彦で、元々アルファは原盤制作会社としてスタートします。赤い鳥〜ハイ・ファイ・セットや荒井由実、GARO、小坂忠らを手掛けていましたが、1977年にはアルファレコードというレコード会社を設立。当時最先端の音楽性を誇るレーベルとして名を馳せたのは、やはりイエロー・マジック・オーケストラ〜Y.M.O.の成功が大きいですが、さらにはCASIOPEA、サーカス、シーナ&ロケッツ、スネークマンショー、タモリのソロアルバムなどでも音楽ファンを魅了。後に吉田美奈子や佐藤博が移籍してきたりと、一時代を高い音楽性とともに気づいたレーベルです。ただしヒットレーベルになったのはいいのですが、ビジネス的にぐちゃぐちゃになっていったところもあり、1985年に村井邦彦はアルファを離れます。これ以後のアルファはどんどん混沌としていくわけですが、PINK解散後のRAEL(ホッピー神山+下山淳)、HALO(福岡ユタカ、矢壁アツノブ)、ピチカートV脱退後の鴨宮諒と超可愛かった梶原もと子によるMANNA、福富幸宏がいた時代のハウスミュージック影響下のSODOM、さらに僕が思想的にも非常に影響を受けた近藤等則IMA、世の中的にはSOFT BALLETが有名だと思いますが、なんのかんので90年代まで爪痕を残していたレーベルです。ただ、この時期に出たAlfa In The 90’sのリミックスシリーズはいただけなかったな…リリース当時以来聞いてないけれども、多分今聴いてもイマイチな気がする。そして1998年には過去のカタログだけを扱うレーベルになってしまいます。その後もいろんな経緯をたどったアルファでしたが、2015年には設立45周年を祝して、村井邦彦の呼びかけのもと、BunkamuraオーチャードホールでALFA MUSIC LIVEが開催。バディットの代表である坂上志歩がチケットを取ってくれたおかげで僕は観に行くことができました。ユーミンがティンパンアレイをバックに「中央フリーウェイ」を歌うとか、何より嬉しかったのがオリジナルメンバーの卯月節子入りのサーカスが観られたり…夢のようなコンサートだったのです。そして、創立50年を迎えた2020年にソニー・ミュージックグループ内でのレーベルとして再始動。まだ全部ではないにしろ、楽曲の配信やサブスクなどで聴けるようになったりということも増えていました。が、まさか新譜を手掛けるとは思わなかったですね…しかもそれが流線形改めRYUSENKEIだったわけであります。

70’sディスコフレーバーあふれる、ドキドキするようなストリングスアレンジやピアノサウンド、4分打ちドラムビートをバックに、Sincereが歌い上げる「スーパー・ジェネレイション」を筆頭とした、ニューアルバム『イリュージョン』をリリース。楽曲テイストやアレンジはまさにRYUSENKEIなのですが、サウンド面に関しては一段とリッチな音像になっている気がします…今までよりも予算がかけられたのかな? サブスクではさらに「あなたはトリコ」も配信されています。「スーパー・ジェネレイション」とはまた違った、Sincereの抑えた歌い口が堪能できます…そう、最新形RYUSENKEIが意外だったのはパーマネントシンガーにSincereを迎えた、クニモンド瀧口とのデュオとして再編されたことだったのです。

『イリュージョン』は心躍らせてタワレコに買いに行きましたが、英詞をSincereが手がけた「月のパルス」「静かな恋のメロディ」のほか、なんと「モンキー・ビジネス パート2」(!)、「タイム・トラベラー」からインストナンバー「真夜中のドライバー」の流れはドライヴミュージックとして最高です。エヴァーグリーンなサウンドやグルーヴ満載なのは言わずもがなですが、ドラムサウンドの音色などにはフューチャーミュージック的な作り込んだ様も感じて、単なる懐古主義シティミュージックには終わらせていない感覚はさすがRYUSENKEIであります。Sincere自身がシンガーソングライターであり、おそらくクニモンド瀧口の半分も生きていない若い娘という笑、この二人の関係性が今での流線形にはないマジックを生んでいるとも感じますね。というのも、Sincereのソロよりも彼女はとても柔らかい声色で、そしてヒップホップテイストのリズミカルなヴォーカルスタイルも得意な人なのですが、『イリュージョン』では比較的ゆったりめに、行間を汲み取るように『間』を意識した歌い方をしているのが極めて好印象なのです! わかる人にはわかる“Baby感”がたまらない「帰郷」で締められる『イリュージョン』は、僕にとってまさに眩くて鮮烈、青春の日々が浮かびあがる音楽なのも間違い無いのですが、タイトルとは裏腹に今を感じさせるリアルな音楽であることも感動的なのでした..良い音しているぜ、『イリュージョン』。

そしてせっかくCDを買ったというのに、7月24日にはアナログ盤LPとしてのリリースが決定! なお今回のアナログ盤はレコード用マスタリングをソニー・ミュージックスタジオの茅根裕司が担い、カッティング・エンジニアをミキサーズ・ラボの北村勝敏が手がけ、ソニー静岡工場でプレスされるとのこと。豪華なセミダブルジャケット仕様で、流行りのカラーレコードではなくておそらくサウンド面をこだわったがゆえのブラックビニールでのレコード仕様。完全限定生産盤だそうなので、プレミアついて泣くことがないように予約するのがいいんだろうな…。

【商品情報】
RYUSENKEI『イリュージョン』
CD MHCL-3082 ¥3,300(税込)
2024年4月24日発売

イリュージョン
Listen to content by RYUSENKEI.

完全限定生産盤 アナログLP
MHJL-347 ¥4,730(税込)
2024年7月24日発売

<収録曲>
Side-A
01. スーパー・ジェネレイション (Super Generation) *3/29先行配信曲
02. 月のパルス (Moon Beams)
03. あなたはトリコ (TRICOT)  *4/24先行配信曲
04. タソガレ (TASOGARE)
05. モンキー・ビジネス パート2 (Monkey Business part 2)

Side-B
01. タイム・トラベラー (Time Traveler)
02. 真夜中のドライバー (Midnight Driver)
03. 静かな恋のメロディ (Quiet Love Melody)
04. もしかしたら2人 (Maybe I Can Love My Neighbor Too)
05. 帰郷 (I Remember Nico)

イリュージョン
Listen to content by RYUSENKEI.

P.S. クニモンド瀧口さん、ぜひ今度僕のインタビュー受けてくださいね。

Newsディスクレビュー北村和孝の音楽エッセイ「楽興のとき」新譜情報邦楽音楽
シェアする
投稿者
北村和孝

埼玉県西川口出身、現在も在住 (あるいは西新宿の職場に籠城)。
元はSSW志望だが90年代後半にrhythmagicを立ち上げて鍵盤やギターもプレイ。
新宿ヘッドパワーを拠点にバンド活動やイベント企画も2010年代まで行なっていた。
大東文化大学卒業後、音楽雑誌Playerに入社。2018年より編集長に。
『高見沢俊彦Guitar Collection 500』『高崎晃Guitar Collection』などの大型写真集、
まるまる1冊女性ミュージシャンで構成した『魅惑のMuses』などの別冊も手がけた。
惜しくも2023年7月で音楽雑誌Playerが休刊となり、フリーの編集者として再スタート。
自ら撮影、取材、インタビュー、執筆するDIYスタイルで洋邦問わず80〜90年代ロックを主体に、
ジャズ/フュージョン、ラジオ、サブカル関連を日々追い続ける。銭湯も趣味。
2024年早々、敗血症ショックで救急搬送されてご迷惑をおかけしましたが回復しつつあります!もう大丈夫!

北村和孝をフォローする
スポンサーリンク
タイトルとURLをコピーしました