岡田徹(moonriders)の遺作「UNICORN」リリース

moonridersムーンライダーズ 屈指のメロディメーカーでありポップ職人だった鍵盤奏者 岡田徹おかだ とおる
徹パパがこの世を去ったのが2023年のバレンタインデーだったからもう一年経ったのか…。
車椅子姿でもプレイし続けるとともにムーンライダーズのメンバーであることに誇りを持ち続けた人だったなって思う。
「ウェディング・ソング」「さよならは夜明けの夢に」「スタジオミュージシャン」「夢が見れる機会が欲しい」「9月の海はクラゲの海」「ダイナマイトとクールガイ」
数々のライダーズの代表曲を手掛けるとともに、CBS・ソニー時代のソロアルバムは渚十吾とタッグを組んで、サプライズカヴァー含めたインスト主体アルバムをリリース。
それくらいからアコーディオンをフィーチャーすることが多くなり、LIFE GOES ONというバンドというかソロプロジェクトに発展していったってこともありました。

ポップテイストを極めていた人

今のロックシーンで当たり前だったりすることのとっかかりを使った先駆者と言える対象に、新しもの好きのムーンライダーズ界隈の人たちももちろん含まれていました。
何かと過激なことをやりたがるというか、尖った人たちだったのはたしかなのだけれども、その中でもポップテイストを極めていた人ってイメージが徹パパにはあります。
わりとライダーズ初期からあえてダミ声ボーカルにこだわって歌ったりっていうのも特徴でしたね。大野方栄とデュエットした「週末の恋人」とか永遠の名曲!

 

先述のLIFE GOES ONで発表された「東京ぬけ道ガール」も抜群にキャッチーで大好きなのであります。
ただし、一曲選べたと言われたら、高校時代にムーンライダーズの『最後の晩餐』に感化された世代としてはやはり「涙は悲しみだけで、出来てるんじゃない」を選ばないわけにはいかない。
鈴木慶一の歌詞も凄まじいものがあったが、当時のトレンドだったハウスミュージックのアレンジに挑みつつ、ビートルズ・イディオムを全編に散りばめた音世界は衝撃的だった。
白井良明ギター番長によるスライドソロも聴きどころですね。

そもそも僕がムーンライダーズのファンになったきっかけは徹パパがプロデュースしていた野田幹子に首ったけだったからなのである。
慶一さん作曲だった「太陽、神様、少年」のマンドリンのトレモロをフィーチャーした地中海サウンドに衝撃を受けて(蛇足だが僕はその後、実際にマンドリンを購入することになる)、ノダミキのアルバムに競うように曲提供していたこのムーンライダーズも地中海サウンドをやっているのだろうと、ムーンライダーズの『マニアマニエア』や『アニマルインデックス』を聴いたことで僕の音楽人生は決定づけられるのである。
この頃のムーンライダーズに地中海サウンドの要素などほとんどなかったので、好きになるには相当苦労した笑。
でも不思議と苦労して理解して好きになった音楽ほど、人生をかけてのファンになったりするのだ。
思えばこの仕事をしたきっかけもムーンライダーズの取材がしたいってモチベーションが大きかったし、現に今も追いかけているのである。
当時それこそ遡って初期の『イスタンブルマンボ』とかクロスオーバー期ライダーズを聴いて、ようやく地中海サウンドに近い路線をたどり着けたのだが随分と時間がかかったものだ。
ただし、当時CDによる初期作のリイシューが進んだこともありアラフィフ世代としてはラッキーだった。
同じような経験した人は同世代なら多いと思うのだけれども。

だいぶ脱線しましたが、ライダーズ本体のみならずソロ活動、楽曲提供やプロデュースものもつい追いかけてしまうのがライダーズファンの習性。
徹パパはそれこそ野田 幹子に限らず、PRINCESS PRINCESSの名付け親だったり、初期PSY・Sのプロデューサーだったりと、EPIC・ソニーとともにCBS・ソニーも隈なくチェックしていた僕にはどうしても引っかかる人でありました。
取り止めもなくつらつらといくらでも書けてしまうわけなのだがこの辺で収束に努めよう。
岡田徹という人は僕にとって最高級のコンポーザーだったのである。
ムーンライダーズがまさか近年、日本コロンビア内のかのBETTER DAYSレーベルに移籍してくるとは不思議な縁という気がするが、ムーンライダーズ+佐藤奈々子による1979年ライブ盤『Radio Moon and Roses1979Hz』が発掘リイシューされた時は驚きだった。
その前の『カメラ=万年筆』の再現ライブでも客演するなど、近年佐藤奈々子とライダーズの共演は増えていた。

2024年のバレンタインデーにリリースされた『UNICORN』

シティポップブームでも再評価が高まっている佐藤奈々子

こうしたつながりの中で、生前の徹パパが「詞を書いて歌ってほしい」と佐藤奈々子に楽曲を託していたのだ。
それが2024年のバレンタインデーにリリースされた『UNICORN』
奈々子が書いた歌詞を徹パパに送ると、「いい感じ、歌を入れてデモを送って」という反応だったそうだが1週間ほど手をつけずにいると、「まだ?」と催促のメッセージが入ったのだという。
急遽、簡単な歌入りのデモを送ると、「いいね、いいね、はやくにレコーデイングしよう」と電話があった。
しかし、その2日後だったのが2月14日…レコーディングに立ち会えることは叶わず岡田徹はこの世を去ってしまったのである。

 

今回のリリースにあたり徹パパの遺志を継いでプロデュース、美しいピアノを奏でたのは近年のライダーズ・サポートでもお馴染み佐藤優介
『UNICORN』は岡田徹 佐藤奈々子 佐藤優介の連名によるリリースとなった。

 

ほのかにシャンソンのように語り部としても歌い上げる奈々子のウィスパー混じりのボーカル…残響感を活かした佐藤優介のピアノは序盤こそ存在感たっぷりだが、奈々子の歌が入ってからは弾きすぎないラインでのプレイで、伴奏としてのアプローチに命を懸けている。
『It’s the moooonriders』「岸辺のダンス」というまさに岡田徹ならではの非常に力強い舞踏曲タイプの楽曲を書き上げたのも驚きだったが、『UNICORN』もそれに続くどこか高貴というか、気品を感じる楽曲なのが好きだ。
遺作という意識があったのかはわからないけれども、そうなってもおかしくないってくらいの覚悟はもしかしたらあったのかもしれない。
ご本人がさらにアレンジを施していたらどうなったのかな?なんてことも妄想してしまったりするけれども、『UNICORN』はピアノ一本で完成してしまっている楽曲という気もする。
それにしても、もう一つ感銘を受けるのは佐藤奈々子の不変の歌声だ。
特に佐野元春とのコラボレーションによる彼女の初期作『Funny Walkin’』なり『SWEET SWINGIN’』も聴いてみてほしい(サブスクなどで容易にきけてしまう時代が来た…)。
不思議と『UNICORN』はその延長上にある楽曲にも聴こえるのだ…。

岡田徹  佐藤奈々子  佐藤優介『UNICORN』

岡田 徹  佐藤 奈々子  佐藤 優介『UNICORN』
2月14日(水)配信リリース
words : 佐藤奈々子
music : 岡田徹

vocal : 佐藤奈々子
piano : 佐藤優介
sound produce : 佐藤優介
recorded by 福岡功訓 ( Flysound )
recorded at studio SONORE
mixed by 佐藤優介
mastering : Harris Newman ( Grey Market Mastering )

artwork : 柳本史
design : 外間隆史
special thanks to moonriders 岡田紫苑  鈴木博文  emma mizuno

Newsディスクレビュー北村和孝の音楽エッセイ「楽興のとき」新譜情報邦楽音楽
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投稿者
北村和孝

埼玉県西川口出身、現在も在住 (あるいは西新宿の職場に籠城)。
元はSSW志望だが90年代後半にrhythmagicを立ち上げて鍵盤やギターもプレイ。
新宿ヘッドパワーを拠点にバンド活動やイベント企画も2010年代まで行なっていた。
大東文化大学卒業後、音楽雑誌Playerに入社。2018年より編集長に。
『高見沢俊彦Guitar Collection 500』『高崎晃Guitar Collection』などの大型写真集、
まるまる1冊女性ミュージシャンで構成した『魅惑のMuses』などの別冊も手がけた。
惜しくも2023年7月で音楽雑誌Playerが休刊となり、フリーの編集者として再スタート。
自ら撮影、取材、インタビュー、執筆するDIYスタイルで洋邦問わず80〜90年代ロックを主体に、
ジャズ/フュージョン、ラジオ、サブカル関連を日々追い続ける。銭湯も趣味。
2024年早々、敗血症ショックで救急搬送されてご迷惑をおかけしましたが回復しつつあります!もう大丈夫!

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