世界的名手たちが集結したチャリティーコンサートが開催される。
ウィーンフィル首席やドレスデン国立歌劇場管弦楽団ソロ奏者と聞けば、
クラシックファンなら誰もがその実力を窺い知れるだろう。
今回のチャリティーコンサートは、
ファゴット、クラリネット、チェロという珍しい組み合わせの奏者たちが集う。
それぞれの楽器の特色を一流の演奏を通して堪能できる、またとない機会だ。
指揮者には茂木大輔氏(元N響首席オーボエ奏者)を迎え、
精力的な活動で知られる「友好音楽祭オーケストラ」と共演する。
なお、コンサートの収益はジャパン・プラットフォームを通じて、
ウクライナの人道支援やハワイ・マウイ島大規模火災の緊急支援などに使われるとのことだ。
出演者プロフィール
今回のコンサートの見どころは、何と言っても世界的に活躍する奏者たちである。
彼らの功績を、演奏動画とともに紹介しよう。
(以下敬称略)
茂木大輔:指揮者、元NHK交響楽団首席オーボエ奏者
30年間もの間NHK交響楽団の首席オーボエ奏者を務めながらも、
指揮者としての活動も両立したという異色のキャリアの持ち主。
『のだめカンタービレ』の音楽監修を務めたことでも名高く、
さらには多数の書籍を執筆している作家としての顔も持つ。
多方面からの深い音楽理解に裏打ちされた、表情豊かな指揮に注目したい。
ソフィー・デルヴォー:ウィーンフィル・首席ファゴット奏者
フランス出身のファゴット奏者。
若干21歳にしてベルリン・フィルハーモニー管弦楽団に入団、
24歳の時にはウィーン・フィルハーモニー管弦楽団の首席ファゴット奏者に就任した、
新進気鋭のファゴット奏者。
今回のプログラムでも演奏されるヴァンハルの『ファゴット協奏曲』は、
彼女が世界初録音に挑んだものである。
また、ファゴット界では少数派である「ピュヒナー」というメーカーの楽器を敢えて愛用している。
彼女独自のこだわりが詰まった、ダークで味わい深い音色に耳を澄ませたい。
ステパン・トゥルノフスキー:ウィーンフィル・首席ファゴット奏者
チェコ出身のファゴット奏者。
1978年よりウィーンフィルの首席ファゴット奏者を務める他、
ウィーン八重奏団のメンバーとしても意欲的に活動をしている。
2006年には国際的なオーケストラツアーにも参加し、
日本でも著名なソリストとも共演を果たしている。
ウィーン音楽大学で教授を務める傍ら、
PMF音楽祭(札幌)でもマスタークラスを開催するなど、
日本とも親交が深い。
ペーテル・ソモダリ氏:ウィーンフィル・ソロチェロ奏者
ハンガリー出身のチェロ奏者。
1997年から2001年までブダペスト弦楽合奏団でソリストを、
2003年から2004年までハンガリー国立歌劇場管弦楽団の奏者を、
2012年にはウィーン国立歌劇場管弦楽団のソロ奏者をそれぞれ務めるといった、
ソロのチェリストとして華々しい経歴を持つ。
2018年の「ウィーン・フィルハーモニー ウィーク イン ジャパン」ではソリストとして出演し、
ブラームスの『ヴァイオリンとチェロのための二重協奏曲』を演奏した。
ローベルト・オーバーアイグナー:ドレスデン国立歌劇場管弦楽団ソロクラリネット奏者
オーストリア出身のクラリネット奏者。
若干17歳にしてウィーン・フィルおよびウィーン・国立歌劇場管弦楽団で客演を務めた他、
19歳でウィーン・コンチェルトハウスにてソリストデビューを果たした。
古典音楽から現代音楽まで幅広いレパートリーを持ち、
CDリリースの際に録音した作曲家も「ブラームス」「レーガー」「ヴァインベルク」と手広い。
古典楽器を使用した演奏活動も特徴的で、
グルノーブル・ルーヴル宮音楽隊やドレスデン音楽祭オーケストラとも共演している。
楽曲解説
今回のコンサートのプログラムは、まさに異色と言えるだろう。
ファゴット、チェロ、クラリネットという稀有な組み合わせであるが、
それぞれの楽器の特色を存分に楽しめるラインナップとなっている。
各楽曲の簡潔な解説を掲載するので、ぜひコンサートの予習にも役立てていただきたい。
P.I.チャイコフスキー:「ロココ風の主題による変奏曲」イ長調 作品33
『白鳥の湖』『くるみ割り人形』などで知られるチャイコフスキーが、
友人のチェリストであるフィッツェンハーゲンのために作曲したもの。
現代では「国際チャイコフスキー・コンクール」の課題曲になるほど、
チェロと管弦楽のための曲における名作のひとつである。
タイトルにある「ロココ様式」とは18世紀における美術様式のひとつであり、
しばしば「華麗」「優美」などと形容されるものだ。
その名の通り、チェロの華やかな魅力が詰まった1曲。
テノールで優雅に歌い上げるチェロの調べに身を委ねたい。
J.B.ヴァンハル:「2本のファゴットのための協奏曲」ヘ長調
ウィーン古典派の作曲家のひとりであるヴァンハル。
彼は極めて多作な作曲家であり、700曲もの印刷譜を遺している。
当時の売れっ子作曲家でもあり、
「作曲だけで生計を立てることのできた最初の作曲家ではないか」とも伝えられている。
また、彼の音楽はモーツァルトやハイドンにも尊敬されていた。
例えばモーツァルトのピアノ・デュオは、
古典らしい長調の響きの中で軽快な掛け合いを繰り広げているが、
もしかするとヴァンハルによる影響が大きいのかもしれない。
そう思わせてくれるほど、ファゴット2本の対話が心踊る曲である。
C.M.v.ヴェーバー:クラリネット協奏曲 第1番 ヘ短調 作品73
ドイツのロマン派初期の作曲家ヴェーバーの、1作目のクラリネット協奏曲。
ヴェーバーはクラリネットのために5曲の作品を遺しているが、
これらは全て当時のクラリネット名手ベールマンのために書かれている。
ベールマンはクラリネットの可能性を一気に押し上げた人物であり、
ヴェーバーの作品群は、彼の技巧を余す所なく披露するものとなっている。
今回演奏される協奏曲第1番にも、
幅広い音域や自由自在なパッセージなど、クラリネットの魅力が凝縮されている。
W.A.モーツァルト:交響曲 第35番 ニ長調「ハフナー」K385
本演奏会唯一の、ソロ楽器を伴わない楽曲。
「モーツァルト6大交響曲」のひとつであり、
既に成熟期であるモーツァルトのシンプルながらもダイナミックなオーケストレーションが楽しめる。
全4楽章から成り、
それぞれ①アレグロ・コン・スピリート、②アンダンテ、③メヌエット、④プレストと
今日においては馴染み深い展開で綴られている。
しかしその中でも、ソナタとロンドを融合した形式など、
モーツァルトならではの実験的試行も散りばめられており、
いかにも彼らしい意欲的な作品だと言える。
今回の演奏会を締めくくるにふさわしい大作で、
気鋭に満ちたオーケストラの響きをお楽しみいただきたい。
演奏会詳細情報
◉第9回東京・ヨーロッパ友好音楽祭チャリティーコンサート◉
<日時> 2023年11月16日(木) 夜公演 19時開演
<場所> 銀座ブロッサム中央会館ホール
<ゲスト>
- ソフィー・デルヴォー氏 ウィーンフィル・首席ファゴット奏者
- ステパン・トゥルノフスキー氏 ウィーンフィル・ファゴット奏者
- ペーテル・ソモダリ氏 ウィーンフィル・ソロチェロ奏者
- ローベルト・オーバーアイグナー氏 ドレスデン国立歌劇場管弦楽団 ソロクラリネット奏者
- <指揮> 茂木大輔氏
<曲目>
- P.I.チャイコフスキー:「ロココ風の主題による変奏曲」イ長調 作品33
- J.B.ヴァンハル:「2本のファゴットのための協奏曲」ヘ長調
- C.M.v.ヴェーバー:クラリネット協奏曲 第1番 ヘ短調 作品73
- W.A.モーツァルト:交響曲 第35番 ニ長調「ハフナー」K385
<チケット> 4,000円(全席指定)
<チケット販売>
https://teket.jp/1134/27005
<お問い合わせ先>
- 電話窓口:090-4483-2925
- メール窓口:friendship.music.festival@gmail.com
<友好音楽祭オーケストラ>
2017年に東京大学、早稲田大学、慶應義塾大学、青山学院大学などの現役、卒業生が中心となって発足し、都内のアマチュアオーケストラ奏者が集うオーケストラ。世界的に活躍する奏者をソリストに迎えてチャリティーコンサートを開催し、国際交流とチャリティー活動の推進を図っている。
これまでにダニエル・ゲーデ(ウィーンフィルの元コンサートマスター)、タマーシュ・ヴァルガ(ウィーンフィルの首席ソロチェロ奏者)、フィリップ・ベルノルド(パリ国立高等音楽院のフルート科・室内楽教授)、カールハインツ・シュッツ(ウィーンフィルのソロフルート奏者)、ペーター・シュミードル(ウィーンフィルの元ソロクラリネット奏者)、クシシュトフ・ポロネク(ベルリンフィルのコンサートマスター)、ティーボール・ギエンゲ(ドレスデン国立歌劇場管弦楽団のコンサートマスター)、ヴァルター・アウアー(ウィーンフィルのソロフルート奏者)、その他、ベルリンフィルの多数の団員たちと共演を重ねている。2022年には世界的に注目を浴びている当時10歳のヴァイオリニストHIMARIとも共演を果たした。
(七生真緒/ナナセマオ)