BEARFOREST RECORDSで鈴木祥子が挑んだ音楽的挑戦

『16 ALL-TIME SYOKOS
BEARFOREST SINGLES AND MORE…2009-20XX』表ジャケット写真。このエヴァーグリーンさ!

1988年のシングル『夏はどこへ行った』から昨年でデビュー35周年を迎えた鈴木祥子(すずき しょうこ)
EPIC・ソニーでのデビューから衝撃的だった才女であり、今も相変わらず麗しい祥子さん…
優れたソングライターとしての顔もあるし、その唯一無二の歌声の魅力、ドラム、鍵盤、ギターなど様々な楽器を担うマルチプレイヤーとしての勇姿はもちろん、時代により作風やサウンドの挑戦にも貪欲に挑み続けてきたイノベーターでもあります。
EPIC・ソニーやワーナーなどいわゆるメジャーからリリースされてきた作品も個人的に思い出深いものばかりですが、祥子さんがユニークなのは2009年よりBEARFOREST RECORDSというレコードレーベルも主宰。
プロデューサー鈴木祥子としてとにかく面白いのが、現在に至るまで意欲的な挑戦を繰り広げているベアフォレスト時代と言えます

『16 ALL-TIME SYOKOS BEARFOREST SINGLES AND MORE…2009-20XX』リリース

『16 ALL-TIME SYOKOS
BEARFOREST SINGLES AND MORE…2009-20XX』裏ジャケット写真も素敵!

そんな祥子さんのサウンドの冒険、さらに生楽器やアナログの音を追求する音楽家としての生き様を焼き付けた、BEARFOREST RECORDSのシングル作品+αをまとめたベストアルバム『16 ALL-TIME SYOKOS
BEARFOREST SINGLES AND MORE…2009-20XX』がリリースされました。
ベアフォレスト発足当初の祥子さんは自分の勉強不足もあり、ラジカルな挑戦をしている印象を持っていました。アナログレコーディングもさることながら、カセットMTRでレコーディングしたり、カセットテープでリリースしたり…アナログレコードブームを経て、近年こそカセットテープもブームになって様々なアイテムがリイシューされているわけですが、そんなことになる全然前のことですからね(笑)。

正直、これはメジャーレーベルで出すのは大変かもなっていう冒険ができるのも自主レーベルを作ったメリットであります。後述の大滝詠一さんがNIAGARA RECORDSで様々な実験を共に完成度高い作品を輩出していたように、祥子さんもBEARFOREST RECORDSがあったからこそ自由な音作りができたところがあります。
しかもその意義は大いにありましたし、音楽家・鈴木祥子を“実践とともに”さらに進化させることとなりました(これが非常に大事なこと!)。結果的にこれは祥子さん曰くですが、「アナログ録音とテープの音」がBEARFOREST RECORDSの大きなテーマとして発展していくことになりました。

今では入手困難なものも収録

相変わらず麗しい鈴木祥子さん。ぜひ近々、続きのインタビューのチャンスをください!

まず『16 ALL-TIME SYOKOS
BEARFOREST SINGLES AND MORE…2009-20XX』のセールスポイントとしては、CDやカセットテープなどいろんな形態で出ていたシングルが網羅されています…
形態が様々だっただけに今では入手困難なものも多いですし、ひとまとめで聴けたら便利なのになって気持ちもありましたので、個人的にも非常にありがたい企画です。
と共に、単に年代順に並べるのではなくて、曲順も相当祥子さんの方で吟味されたと思うのですが、ベアフォレストヒストリーの追体験と共にオリジナルアルバム的に堪能できる時間の流れがあります。
至高のコーラスワークやリズムアレンジが楽しめるゴージャスなバンドサウンドと、十八番のピアノ主体アレンジのもの、「助けて!神様 ~ So Help Me,GOD!」でエレポップも飛び出して驚くかもしれませんが、それも含めて見事にブレンドされており、なおかつ最新マスタリングでユニークかつ最高のサウンドが楽しめます。

このまとまり具合は正直意外なものがありました…もっとバラバラな感じになっちゃうと思ったのですが、近年の鈴木祥子作品に携わっているビクタースタジオのエンジニア・中山佳敬さんがマスタリングを手がけているのが大きいのだと思います。
ブックレットの祥子さん自身による解説もすごく面白いので読み解きながら、どんな風に録られたのかをクレジットでチェックしながら聴くのも楽しいです。

とりわけ近年の鈴木祥子作品をご存知ない方には、こんなことをやっている人なんだ!と率直に驚くと思います。そしてデビューから不変のこのヴォーカルの凄まじさ!とにかくスピリッツは新たなことに果敢に挑んでいくロックこの上ないし、ポップミュージックとしての王道がここにあります。
それにしてもアルバムラストは「ファーラウェイ・ソング(遠く去るもの)」にしたのですね、祥子さん。
ソールドアウトした『北鎌倉駅/遠く去るもの(ファーラウェイ・ソング)』におさめられたのち、『SWEET SERENITY』のアナログレコードリイシューに追加収録された楽曲です。祥子さんが今まで書かれた中で最も達観したラブソングかもしれません。
でも、波乱万丈の人生というイメージがある鈴木祥子には、ひょっとしたら「ファーラウェイ・ソング(遠く去るもの)」のまだ続きがあるかもしれません(笑)。

タワーレコード渋谷店の“パイドパイパーハウス”で購入したら、BEARFOREST RECORDSのかわいい布バッグが特典でついてきました!

全曲名曲なのですが、冒頭「超・強気な女(I’ll Get What I Want) 」は中山佳敬さんのリミックス。リズムボックスによる導入部から、祥子さんのシンバル多めの生ドラミングが重なり一気に生々しくなります。
個人的にはセンチメンタルシティロマンス告井延隆がアコースティックギターを手がけた、4trカセットMTR録音による「45 minuites」(ちゃんと今も僕のデスクにはこのカセットが飾られています!)も印象深いです。
そして、“名前”ってすごく大きな意味が当然あってそれをテーマにしたポップソングも多いのですが、「名前を呼んで ~ When you call my name」は歌詞も含めてコーラスとホーンアレンジ、ドラム、パーカッションの融合も最高です。
「You take me,you make me」のゴスペルティックな質感も見事で、祥子さんによるチェンバロやオルガンのプレイ、そしてムーンライダーズ武川雅寛さんのトランペット、川口義之さんのサックスも素晴らしい。
「星影のワルツ」はちょっと意外だった千昌夫さんのカヴァー(作曲は遠藤実)は、ブックレットの祥子さんの解説を読むとより理解に深みが加わります。
「愛と幻想の旅立ち」は最高にポップな一曲で、ダリル・ホール「ドリームタイム」のオマージュもありつつ、ナイアガラテイストたっぷりのサウンド。
加納エミリさんとの抜群のコラボレーション「助けて!神様 ~ So Help Me,GOD!」は、よくぞこんな祥子さんを引き出してくれた!と嬉しかった一曲。

数々の名盤を作り上げてきた菅原弘明さんとのコラボレーションもやはりマジックがあるなと、「ノースバウンド・アイランド急行 ~ リミのテーマ」「鼓動 ~ ハートビート」「ファーラウェイ・ソング(遠く去るもの) 」を聴くと感じますね。.
..いやいや、シングル集だけに解説しだすときりがない名曲の宝庫です。参加ミュージシャンも幅広く豪華この上なく、この辺も聴きどころですね。

大滝詠一メソッドを真摯に研究

でもって、もう一つ重要なのは大滝詠一さんのカヴァーシングル「青空のように」。当時アナログ7インチシングルでもリリースされましたが、祥子さんは大滝さんが生前の最後の“弟子”かというくらい、ご本人とやりとりしてナイアガラサウンドのみならず、大滝メソッドを真摯に研究されていました。
それこそ竹内まりやさんが大滝さんと女性版ナイアガラ・トライアングルがやりたいと仰られていたというのはファンならご存知の話ですが、それで言ったら鈴木祥子もいなきゃだめだろう、なんて思っていたのです。
残念ながら大滝さんは2013年に旅立ってしまうわけですが、『EACH TIME』の40周年にもあたる2024年、『16 ALL-TIME SYOKOS
BEARFOREST SINGLES AND MORE…2009-20XX』のブックレットでは、当時の祥子さんと大滝さんの往復書簡の一部が『FROM NIAGARA TO BEARFOREST』として掲載されているのです!

大滝さんは、祥子さんのことを“Shokoちゃん”と呼んでいたのか、とかそんな発見から始まり、「青空のように」についても触れられていて、ナイアガラーとしても非常に興味深いものがあります。
大滝さんの急逝にはかなり落ち込んだ祥子さんでしたが、そのアナログレコーディングの冒険を更なるメソッドでサポートしてくれる存在として、先述の中山佳敬さんと出会うことで、その冒険はさらに加速していくこととなりました。
この辺はそれこそ音楽の神に見染められた祥子さんならではの宿命と言いますか、凄みなのであります。ゆえに物語はまだまだto be continued… ワーナー時代の楽曲をビクタースタジオでレコーディングしたりと様々なマテリアルも進行中ではありますが、きっときっと『SWEET SERENITY』に続くオリジナルアルバムも待っていると思うのです。でもその前にまず10年以上に及ぶ鈴木祥子の音楽的冒険を共に振り返ってみようではありませんか。
10年ちょっとという時間軸で、これほどの音楽的挑戦ができたっていう凄まじさに、50歳になって大病で死に損なった僕は真に感銘を受けました。
でも次のオリジナルアルバムを聴くまでは逝くわけにいかないし、稀代の音楽家・鈴木祥子についていくのであります、この身体があるかぎり。

『16 ALL-TIME SYOKOS BEARFOREST SINGLES AND MORE…2009-20XX』

鈴木祥子
『16 ALL-TIME SYOKOS BEARFOREST SINGLES AND MORE…2009-20XX』
BECD30 2CD ¥3,800(w/o tax)

1.  超・強気な女(I’ll Get What I Want) 4:16 (2009)
2. 45 minutes 2:33 (2013)
3. センチメンタル・ラブレター 3:23 (2010)
4. 名前を呼んで ~ When you call my name 3:15(2010)
5. 青空のように 3:52 (2010)
6. You take me,you make me 5:47 (2010)
7. Is my love wrong? 5:01 (2010)
8. Weaver Of Love ~ 愛を織る人 4:44 (2011)
9. 星影のワルツ 4:22. (2013)
10. 愛と幻想の旅立ち 4:37 (2012/2022)
11. my Sweet Surrender 4:34 (2009)
12. 助けて!神様 ~ So Help Me,GOD! 3:51 (2013)
13. ノースバウンド・アイランド急行 ~ リミのテーマ 5:28 (2017/2018)
14. 北鎌倉駅 3:38 (2013/2017)
15. 鼓動 ~ ハートビート 5:26 (2017/2018)
16. ファーラウェイ・ソング(遠く去るもの) 3:52 (2012/2018)

(8cm Single Bonus Track)
1. Against All Odds
2. Heat Of The Moment
3. Heart Like A Wheel
4. Lucky Lips

鈴木祥子オフィシャルサイト Syoko Suzuki Official Site
鈴木祥子のオフィシャルサイト。鈴木祥子の最新情報、リリース情報、ライブ情報など。
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