中川勝彦 ワーナー時代アルバム TALK REVUE してみたい(3)

1984年2月22日、シングル、そしてアルバム『してみたい』による衝撃的なデビューから40年! 遂に中川勝彦(なかがわ かつひこ)のワーナー期全音源がワーナーミュージック・ジャパンにより、各ストリーミングサイトでサブスクリプション解禁された。
シンセサイザーや空間系ギターサウンドも駆使された80年代ロック、ポップミュージックの先進性にひたすら挑んでいたかっちゃんの一つの境地となったのが、ここで採り上げる3rdアルバム『ペントハウスの夏』である。
言うなれば『してみたい』『DOUBLE FEATURE』と三部作的にも聴こえる初期・中川 勝彦の到達点というイメージがある。

バディットマガジンでは今回のサブスク解禁を祝して、共にかっちゃんフォロワーを自認する村上あやのと北村和孝による対談により、ワーナー期 中川勝彦の音楽性について紐解いている。第三回もどうぞご堪能あれ!

『してみたい』について語った第一回はこちら

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中川勝彦
3ndアルバム『ペントハウスの夏』(1984年)
かっちゃん 早くも一つの境地へ

あやの:どうして当時、ローティーンの男子が『ペントハウスの夏』を聴こうと思ったんですか?

北村:『ペントハウスの夏』はやっぱり参加メンバーが豪華だったの。雑誌のディスクレビューとか読んでいて、作家陣、参加ミュージシャンのメンツを見て、これは!と思った。相変わらず加藤和彦さんは参加しているし、『DOUBLE FEATURE』に続いて北島健二さんなんかの名前も出てくるわけで。
織田哲郎さんとのWHY9th IMAGE浜田麻里さんのレコーディングで参加していたり、『反逆のギター戦士』ってソロアルバムが話題になっていたり…そういやFENCE OF DEFENSEのデビュー前から北島健二さんにはスーパーギタリスト的な印象はあったなと。

あやの:あと前作に続いて土方隆行さん、今剛さんね。

北村:そうそう、ここでいわゆる笹路正徳人脈が入ってくるわけですよ。笹路さんっていうと80年代初頭にマライアナスカってバンドで一世一風靡したわけですが、その片腕となるギタリストが土方さんだったわけで、さらに渡辺モリオさん、山木秀夫さんはマライアのメンバーでもあったわけで、『ペントハウスの夏』ではこの辺のミュージシャンが台頭してきている。
ちなみに笹路さんは後のSHOW-YAPRINCESS PRINCESSUNICORNVELVET PΛWなんかを手掛ける名アレンジャー、名プロデューサーです。

あやの:そうですね。また毛色がね、ちょっと変わってきたりして。

北村:『ペントハウスの夏』って、個人的には結果的に『してみたい』『DOUBLE FEATURE』路線のなんか完成形みたいに思ってて。

あやの:うん。

北村:だけど正直なところ、『してみたい』『DOUBLE FEATURE』って多分ワーナーが期待していたほどのセールスを上げられてなかったと思うわけ。その意味ではワーナー側におけるテコ入れも結構感じる。正直、「ナンシー・Chang!」ってなんだよ!って思っていた男子でした。
白井良明さんが作った「Skinny」で凄くニューウェーヴ路線を極めているのに、加藤和彦さんの「ナンシー・Chang!」だけちょっとポップすぎないか!?とかやっぱり思っちゃうんですよね。

あやの:「ナンシー・Chang!」はめちゃくちゃポップですよ! もうタイトルだけでこれは何だろうって思いますよね。みんな思ったと思う、このアルバムを全体で見たとき。

北村:で、「いつもと違う悲しみ」って曲があるんですけど…。

あやの:ありますね。はい。

北村:この曲で初めて作曲のみならずアレンジでかっちゃんの名前も入る。

あやの:そっか、もうこのときにアレンジも手がけているんだね。

北村:ちなみに作詞の鈴木博文さんはムーンライダーズのベーシストで、コーラスアレンジの椎名和夫さんは元ムーンライダーズで良明さんが入る前のギタリスト。当時は山下達郎バンドのギタリストでもありました。
さらに個人的に面白いのはかっちゃんと一緒にアレンジしているキーボーディストの横田龍一郎さん。多分皆さんからするとほとんど知らない名前かもしれないですけれど、この人は超キーパーソンで、後にREBECCAのベーシスト高橋教之さんの名作ソロ『LANDSCAPE』を教さんと共に作る人で、一番有名な仕事としては後の岡村靖幸バンドのサポート。

あやの:横田隆一郎さんでしょ、うん。

北村:横田さんね、一度取材したくていろいろ探しているんですけど、この方、どう頑張っても連絡が取れないんですよ…。教さんに聞いてもわからないって言うからちょっと心配なんですけど。

あやの:でも笹路さんにしろ新川博さんにしろ、本当にキーボーディストの方々の名前見るだけでもすごい面々。

北村:そう。だから『ペントハウスの夏』はなんかすごくキャッチーさと、何とも言えないマニアックさが一緒になっているんだよね。

あやの:私の中ではこの3枚目の『ペントハウスの夏』は良い意味でごった煮っていうか、いろんなものが混沌と混ざってる感じ。でもそれはもしかしたら参加ミュージシャンがこれだけバラエティに富んでいるからかもしれない。今思うとですけど。
1枚目2枚目ぐらいまでは、何となくこの流れを感じるんだけど、『ペントハウスの夏』はここで一気に、いろんな要素を入れてきたなという気はしました。

北村:あと「ROCKAHOLIC」村田有美さんがデュエットしていたりとか、これも結構個人的にはすごくインパクトがありました。村田有美さんの参加もソロアルバムのプロデュースを笹路さんがしていた流れだと思う。

あやの:「ROCKAHOLIC」いいですね、私、この曲好きですね。

北村:メンツがちょっとまた変わってくるんだよね。さっきも言ったように笹路さん寄りの人が全編にわたり入ってきたことで。

あやの:聴いているとそうですよね、結構ロック寄りになってきて、でも当時のかっちゃんの趣味が結構反映されているように『ペントハウスの夏』は感じる。

北村:一つ何か完結っていうか、中川勝彦路線みたいなものができた気がするんだよね。

あやの:うんうん。チャットにも書き込みをいただいているのですが…かっちゃんの周りはすごいアーティストがいつもそばにいましたねって。

北村:本当、豪華ですよね。

あやの:“北村さんは髪を長くしてましたか?”って書いてありますよ(笑)。

北村:そんなこと聞いてどうするんだか…でも四十代は長かった(笑)。

あやの:そうなんだ(笑)。かっちゃん並みに?

北村:たしかに『ペントハウスの夏』のジャケットぐらいまで伸ばしていましたね。ただ僕、天然パーマなんで、全然こんな感じになれない。どっちかっていうとデビュー当時の岡村靖幸さんですよ(笑)。
もう全然コントロールできなくてぐしゃぐしゃで…願掛けで伸ばしてた時期があったんだけど、コロナ禍で願掛けの意味も無くなったしもう面倒臭くなってやめた(笑)。
どう頑張ってもかっちゃんみたいにこんなかっこよくなれないですよ。そもそも別次元の人じゃないですか?

あやの:そうだよね(笑)。それにしてもデビュー40周年で…今回これだけTwitterというかXを見ていても、かっちゃんで想像以上の盛り上がりを見せたじゃないですか。

北村:うん。

あやの:奥さまの桂子さんがサブスク配信スタートについて “勝彦さん、凄い! (デビュー日に合わせたサブスク解禁日が)2.22だから猫みたいだねって笑って喜んでいたのが昨日の事のようです。” って書かれていたのに対して、しょこたん…娘さんの中川翔子さんが、“存在感。生きてるみたい”って書かれて…。

北村:あぁ、読んだ読んだ! あれは凄いと思った。

あやの:うん。盛り上がりを見た翔子さんがあれを書いているのを見て、もう泣いてしまってその日眠れなかった。あの言葉の重みは私達も感じているじゃない?今これを読んでいる人たちもそうだと思うんだけど、自分がどのシチュエーションであのとき訃報を聞いたかも、一瞬にしてよみがえるんですよ。
やっぱりそういう匂いとか、場所とか、誰と一緒にいたときにその悲しい知らせを聞いたとか、みんなそれはね、一緒だと思うんです。この前私が書いたエッセイ(「中川勝彦デビュー40周年!」https://bhodhit.jp/kacchan40th/)を読んでくださった人たちは多分、自分を重ねて読んでいただいていたんじゃないかなって。みんな同じ想いをしてきてると思うので。

北村:いや、どうしたってそれはそうでしょう。

あやの:だから先日のしょこたんが書かれていた存在感って言葉もそうだし、生きてるみたいっていう言葉は重かった。すごく。

北村:たしかに印象的だったね、あれはしょこたんにしか書けないね。

あやの:書けないですね、本当にしょこたんもいろんな想いを抱えてここまで来てるはずだから。何かね、あの言葉は良かったです。だから40周年でこれだけかっちゃんの話で花開くんだから、語り継いでいける部分があれば、みんなで語り継いでいきたいですよね。

北村:だから、このサブスク化でかっちゃんを知らない人が聴いてくれるようになるっていうのは何か面白いと思うんだよね。

あやの:そう、翔子さんのファンの方とか、“しょこたんのお父さんってこういう人なんだ!? 中川勝彦っていう人なんだ!”って。そういう人たちがかっちゃんの音楽に触れることってサブスクじゃないとないと思う。

北村:たしかに若い人たちはCD買わないだろうし、そもそもかっちゃんのCDがもはや入手困難になっちゃっている…。

あやの:そうだよね、世代的にCDで聴かないじゃない?それがサブスクだったら、その垣根がすぐ飛び越えられるから。それを考えると、この機会に曲を聴いてもらえると思うと嬉しいですよね。
それにね、実際聴いてくれてめちゃくちゃかっこいいじゃん!って言っている人たちの声が結構SNSのタイムラインに流れてきてた。

北村:なるほど!

あやの:うん。それがとても嬉しいなと思いました。サブスクすごいなって思います。時代だなとも思いますけどね(笑)。

北村:今回のサブスク解禁は2008年のリイシューの時の音源がアップされているので、その際のボーナストラック付きでそのままアップされている。だから『してみたい』で言うと、「雨の動物園」の感動の後に2ndシングルの「花の首飾り」が入っていてちょっと違和感もあるんだけど(笑)、でも収録時期的にここに入るしかないんだよね。

あやの: CMでも流れていたタイガースのカヴァーですよね。でも、この「花の首飾り」ってものすごくかっちゃんの声にぴったりだと思って。

北村:なんか周りにはそういうイメージがあったんじゃないかな。やっぱり新時代のジュリーを作り出そうとか、そういうのからスタートしているんじゃないかって大人になってから思った。
ま、かっちゃんのいくべき理想像というか、そういう存在をイメージできるものがなかったんだと思うんだよね。さっきの話と重なっちゃうけれど。

あやの:その頃ね、うん。たしかにいなかったと思う。そこに行かなかったね。それは何だったんだろう? 行ける要素ってあったと思うんだけど。

北村:それはリアルタイムではやっぱり限界があったんだろうね。

あやの:役者としてもほんっとにね、すごく良かったし、輝いていたし。それこそしょこたんに、音楽の才能も猫好きなところも、かっちゃんのあ魅力的なところが流れてるんだよね。あの絵心もそうですよ、本当に素晴らしいじゃないですか? かっちゃんが描いたたくさんのイラスト、病床で描いた絵本とかも素晴らしいし。そうしたかっちゃんの描いてきたイラストが、今年Tシャツになってるっていう。

『FROM PUBERTY』につづく

中川勝彦『ペントハウスの夏』(1985年)

白井良明作曲、アレンジ、プロデュースによる先行シングル「Skinny」とともにリリースされた3rdアルバムは、前作に続く加藤和彦や新川博の参加、半数以上の作曲を中川勝彦自身が手がけるとともに、タイトル曲では作詞も担うなど、デビューからわずか一年足らずで一つのスタイルを確立してみせた感がある。
楽曲によって歌い分けるヴォーカルアプローチも絶好調であり、「白いアンティック・ドレス(キラー通りMIX)」のオーバーチュアからの「Skinny」の流れなど、アルバム通してのコンセプチュアルさが魅力的だ。

マライアやナスカの鍵盤奏者として注目を浴びていた笹路正徳をアレンジャーで初起用、笹路人脈がさらなるロックセッション度の強い音像を具現化してみせた。
土方隆行のギターカッティングが炸裂する「ROCKAHOLIC」では村田有美が女性ヴォーカルで参加。
安井かずみ、加藤和彦コンビによる「ナンシー・Chang!」はリミックスされて通算5枚目のシングルとしてカットされた。
「白いアンティック・ドレス」はROXY MUSICの名盤『AVALON』のオマージュたっぷりで、かっちゃんのヴォーカルの官能的な歌いっぷりも聴きどころ。
キャッチーさで言えば自ら作曲した「なぎさホテル」「水の中のクリスマス」も屈指の名曲で、これをシングルカットするのもアリだと思うのだが…本人作曲の楽曲がシングルタイトル曲にならないジレンマを勝手に感じとってしまう。
ファンキーな打ち込み路線の「いつもと違う悲しみ」も本人作曲で、アレンジも横田龍一郎と共にクレジットされた。今思えば次作『FROM PUBERTY』の架け橋となっている楽曲である。
そしてラストナンバーであるタイトル曲は初の本人作詞曲。夏に散った恋の残像をかっちゃんならではのロマンティシズムで歌いあげる様が圧巻。自らにとっての理想のスタイルを追究しつつも、周囲の期待する中川勝彦像とのバランスもうまくとれたことで、極めて洗練された音楽性の一枚が生まれたのである。

海に浸かる中川勝彦が印象的なジャケットは、ソロアルバムで最も美しいとも言える一枚で、コアファンでもとりわけ好きな人が多いだろう。

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